指揮者って楽器を演奏しないで棒を振っているだけみたいに見えて謎の存在ですよね。それで一番お金もらって偉くてどういうこと!?って思う人が多いと思います。(多分ほとんどの人)
でも指揮者はオーケストラには絶対に必要な存在なのです!
どれほどに指揮者か大事か、指揮者によって演奏が変わっていくかということについて語っていきたいと思います。
※これは全て単なる自論です。
目次
指揮者が登場したのはいつか
正確にいつからということはわかっていませんが、オーケストラの人数が増えていくにつれ、テンポや拍子を示す必要が出てきました。
それによって17世紀頃から指揮をする人が現れましたが、あくまでもこの時は現在のように音楽の全てを統括するといった役割でもありませんでしたし、指揮棒というものもまだありませんでした。
そしてまだ指揮者という職業ではなく、コンサートマスターであるヴァイオリン奏者がみんなを代表して振ったりそんな感じだったそうです。
指揮棒が刺さって死んだ人がいる
これは有名な話。
17世紀フランスでは指揮棒を振るのではなく、大きい杖のようなもので床をたたいてリズムをとっていました。
そしてこのリュリという作曲家が、宮廷で王の御前で演奏していた時にあまりにも気合が入りすぎてしまい、思い切り床を叩いていたら思い切り足に突き刺してしまい、それが原因で破傷風になり亡くなったとか。。。
オーケストラが大きくなって専業指揮者が必要になる
19世紀に入り、曲が長大に複雑になってオーケストラの人数もどんどん増えていくと、音楽をまとめる人が必要になります。
ロマン派の頃です。
指揮者はなぜ必要か?
ちょっと極端な言い方をしてしまえば
オーケストラという一つの巨大な楽器を演奏するのが指揮者です。
もちろんテンポや強弱、拍子を示すのも大切ですが
100人音楽家が集まれば、みんなにやりたい音楽があったり異なる意見があるのでそれを統率するのはとても難しいことなのです。
いなくても演奏は可能ですが、カリスマ性のある統率者による演奏はオーケストラの実力がかなり引き出されるのです。
軍隊で例えても各兵士がどんなに強かったとしても、指揮官が無能だったら兵士は全く力を発揮することはできませんね。
まだニビシティのバッチくらいしか持っていないのにいきなり通信で100Lvのミウツーを手に入れても言うことを聞きません。
100人近い集団をまとめ上げるには絶対に統率する人が必要です。
指揮者はオーケストラにどう思われるのか
それもプロのオーケストラは一人一人がとんでもない競争を勝ち抜いてきた人たちなわけなので、それだけリーダーには大きな実力と説得力が必要になってきます。
「こいつ何も音楽のことわかってないな!?」みたいにオーケストラの人たちに思われてしまったら最悪です。
もちろんプロとしての演奏はするものの、そのオーケストラの最大限の演奏とは違うものになってしまいます。
全員が信頼でき尊敬できる指揮者が演奏すると、オーケストラの最大限の力を引き出すことができます。
ちなみに僕が働いているロシアのブリヤート歌劇場ではフェスティバルなどでゲスト指揮者もありますが、みんなかなり圧をかけるというか
「そんな振り方じゃ吹けねえなあ」みたいなプレッシャーをすごくかけます… ロシア語が母国語じゃない人が来るとみんな冷たい
指揮者ってほんと大変な仕事だと思いますね
ロシアについて↓
個人的に思う指揮者の2つのタイプ
※ここからは完全に僕の主観です
僕は2年間ベルリンに住んでいた時に、毎週ベルリンフィルを聴いて他にもオペラもたくさん観ていました。
ベルリンフィルには常任の指揮者以外にもほとんど毎週違う指揮者が来ます。
そこでたくさんの巨匠の演奏を聴き、かなり大雑把に分けると2つのタイプにわかれているのかなと思いました。
オーケストラを尊重し引き出すラトル
ベルリンフィルの前常任指揮者、Simon Rattle
彼の演奏は本当に何回も聴きました。
ベルリン・フィルの人たちや、一緒に演奏したことのある人たちはみんな
「彼はとっても親切であたたかい良い人なんだ!!」ってすごくいいます。
本番の後舞台裏のカフェテリアで団員さんたちが談笑している時に彼が来ると、みんなやってきて楽しそうに一緒にお酒を飲んでいました。
彼の演奏はそんな人柄が伝わってきます。
なんといっても「透明感」
自分でオケをコントロールしようという感じではなく、オーケストラを尊重していい演奏を引き出すといった印象。
いい意味で自分の存在感を薄くしているというか、オーケストラに目がいきます。
ベルリンフィルの団員が彼をすごく信頼しているというのも伝わってきます。
僕は彼の編成の大きい曲や現代曲の演奏が好きです。
ごちゃごちゃした曲でもラトルが演奏するととにかくすっきり!!
ハイドンやモーツァルトになるとすっきりしすぎておもいしろくないかなと思いますが。笑
絶対的な存在で独裁者的にオケを引っ張るバレンボイム
ベルリン国立歌劇場の常任指揮者 Daniel Barenboim
7歳でピアニストデビューし、現在はプライベートジェットで世界を飛び回る巨匠。
僕はベルリンにいた頃にベルリン国立歌劇場の先生に習っていたのでよく演奏会を聴きに行っていました。
彼は絶対的なリーダーでありもはや独裁者的な雰囲気があります。
リハーサルを見学した時もオケの人にめちゃくちゃ厳しく指摘を繰り返していましたし、リハーサルで彼に捕まり過ぎて精神を悪くして別のオーケストラに移籍した人もいるほどです。
オーケストラの人も他の指揮者の時はリハーサルの10分前に来てちょっと音出ししてってくらいなそうですが、バレンボイムの時は2時間前から来て練習しているらしいです。笑
とにかくみんなに恐れられている。
でも彼の音楽とカリスマ性は本当にすごくて全部を委ねられるというか
「ごちゃごちゃ考えず俺についてこい!!!」って感じなので
彼がオーケストラを演奏している
というラトルとは全く逆の感じです。
演奏中のオーケストラの集中力も本当に高まっていますし、あのスーパーエリート集団を有無を言わさずに従える絶対的な実力とカリスマ性。
でも意外と声がめっちゃ高いです
リハーサルでびっくり。笑
ラトルの時は終演後に舞台裏でみんなと笑いながらお酒を飲んでいますが
バレンボイムの場合、全員下を向いて誰も話しかけようとしません…
僕の先生もビールを飲んでいたのに「マエストロでてきた…!」とビール置いて下を向いてました。笑
そんなやばい雰囲気の中、僕が「あ、はろー!」みたいに話しかけたら
「Junge(若者よ)」って肩をポンってされました。笑
バレンボイムと接触したことは2回ありました。
レッスンを受けに楽屋口から入ろうとしたら、彼が黒いセダンとマッチョなSPとともに登場したので、ドアを開けて「ど、どうぞどうぞ…」と待っていたら
少しだけ微笑んで「若者よ。」って肩をポンってやってくれました。
ちょっと顔を覚えてくれたみたいです…!
劇場に出入りするアジア人の若者ってそんなにいないからかもしれません。
いい思い出w
彼はワーグナーやブルックナーといったドイツ系の作品を得意としていて、5時間以上あるワーグナーのオペラも楽譜無しで演奏します。ありえません。
歌詞まで全部覚えているという。
ピアニストなのでベートーヴェンやモーツァルトの協奏曲もおすすめです。
音楽について話している動画には日本語訳のついているものもいくつかあり、とてもいいお話をしているので必見です。
”音”と”音楽”の違いなど本当にためになります。
僕の一番好きな指揮者の一人です。
指揮者の演奏の違いをわかりやすくまとめた動画
「指揮者なんて誰がやっても同じじゃね?」と思う人のための同曲異演集
www.youtube.com
ここには残念ながらラトルとバレンボイムは出ていませんがかなりわかりやすい。
録音でも、違うオーケストラでもよく分かる違いがあると思います。
テンポや音の長さ音量やフレーズ感など全部違います。
先ほど書いたようなバレンボイムやラトルの話は実際録音を聴いただけではよくわかないと思いますがこれなら明確に違いが出ています。
やっぱりほとんどは生で聞いた時の感覚ですね
こんな一瞬のワンフレーズですらここまでの違いがあるので、1時間を超える曲だったらすごく大きな違いになっていくわけです。
みなさんぜひともたくさん演奏会に足を運んでいろんな指揮者の演奏を聴いてみてください!!
指揮者のマーラーを振るときの熱狂度ランキング
順番に見ていくと最後はもはや顔芸ww
人によって全然違うことがよくわかりますね。笑
指揮者は必要?
いかがでしたでしょうか。たくさん指揮者のことについて書いてみましたが、少しは
「必要なんだなー」くらいに思っていただけましたでしょうか!
指揮者なしでも演奏は可能なんですが、ものすごいたくさんのリハーサルが必要になったりオーケストラの人数が大きくなるほどそれを統率する人が必要になるわけです。
プロは普通3回ほどのリハーサルで演奏会をするので、指揮者がいたほうが圧倒的に効率がいいということもあります。
指揮者、必要!
筆者はシベリアの歌劇場のトランペット奏者です
この記事は多くの方々に読んでいただいているので宣伝ですが、私はドイツの留学を経て今はロシアのシベリアのブリヤート共和国というところの歌劇場の首席トランペット奏者として働いています。
劇場はこんなところ
夫婦で働いているので、妻もこのブログで「ロシアでおうちごはん」というシリーズで記事を書いています。